生命保険の活用

金融庁からの令和4年度の税制改正要望に、相続税における「死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ」が出されています。内容としては、現行の控除額に「配偶者及び未成年者の被扶養法定人数×500万円を加算する」というものです。
※令和4年の税制改正には、盛り込まれませんでした。

そこで今回は、死亡保険金も含めた生命保険を活用した相続対策について、注意点とポイントをご紹介いたします。

余談:金融庁からは、平成31年度の税制改正要望や平成23年度の税制改正要望にも同様の要望が出されていますが、同年の税制改正大綱にも上がっておりませんし、平成23年度の税制改正大綱においては、死亡保険金の非課税措置について基本的な考え方の中で「算定の基礎となる法定相続人の範囲を縮減します。」(平成23年度税制改正大綱 16頁)と、金融庁の要望とは裏腹に非課税対象の削減方向の意見も見られるため、どうなるのかは見当がつきません。


死亡保険金の活用

死亡保険金について
民法においては、死亡保険金請求権(又はこれを行使して取得した生命保険金)は、被相続人の財産ではなく保険金受取人の固有財産となるため、相続財産には当たりません。しかし、税法では、相続税法第3条において「相続又は遺贈により取得したものとみなす」と規程されており、相続税の課税対象となっております。ただし、死亡保険金については相続人の生活の安定のため等の理由から、下記の非課税枠が儲けられております。

相続税の非課税財産

非課税限度額:500万円 × 法定相続人の数 ※1
1 相続の放棄があった場合には、その放棄が無かった場合の相続人の数で養子の数には制限あります。
非課税の適応対象者:相続人(相続を放棄した者を除く)

活用のポイント

  • 死亡保険金の受取人は相続人にする。
    →相続税の非課税財産となるのは、相続人に限られる。
  • 非課税限度額を上手く使う。
    →現金・預金などで相続するよりも相続税の負担が減少する。
  • 他の控除との兼ね合いを考えて保険を掛ける。
    →配偶者控除などの控除が使える場合には、配偶者については現金・預金などで相続し、他の相続人を死亡保険金の受取人とするなど、トータルでの節税を図る。
  • 分割協議等が不要で支払も素早くできるため、遺産分割に時間がかかりそうな場合には、生活の保障が必要な人を受取人にする。
    →分割などで揉めることが懸念される場合には、相続発生後に生活の保障が必要な方について、分割協議などが不要な死亡保険金の受取人とする。

注意点

  • 相続人それぞれで受取りが出来るため、秘密にしている受取人がいると相続税の申告から漏れることがある。
  • 保険の負担者、被保険者、受取人の組み合わせによっては、相続税ではなく贈与税や所得税が課税される。
  • 相続を放棄した者は、非課税の恩恵が受けれない。
  • 非課税限度額の算定において、養子を相続人の数にカウントする場合の上限は、実子が居ない場合には2人、実子のいる場合には1人までになる(実子とみなす場合を除く)。


遺留分減殺請求対策について

※死亡保険金は遺留分の減殺請求の対象とならないが、平成16年10月29日の最高裁判例で「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる。」とされているので、遺留分の減殺請求対策で活用する場合には、ご留意ください。


生命保険契約の活用

生命保険の被保険者と保険料の負担者が異なる場合に、被保険者より先に保険料を負担していた者が死亡した場合には、契約者(または新しい契約者)が、相続発生時に「生命保険契約に関する権利」として評価(相続発生の解約返戻金の金額)された金額を相続したとして相続税が課税されます。


本来の相続財産とみなし相続財産

保険の契約者と保険料の負担者が同じである場合には、本来の相続財産として遺産分割協議の対象となります。契約者が居なくなるため、誰がその契約を引き継ぐかの決める必要があります。一方で、保険の契約者と保険料の負担者が異なる場合には、契約者自体には変更がないためみなし相続財産となり、相続税の課税対象とはなりますが、遺産分割協議の対象にはなりません。

活用のポイント

  • 相続人などに必要な保障は、保険の契約者・保険料の負担者・被保険者の組み合わせを工夫し、遺産分割協議を必要としない権利の承継をおこなう。
  • 相続発生時の相続財産となるため、贈与税の非課税枠を消費せずに財産の承継先を決めることが出来る。

注意点

  • 相続税の非課税財産とはならない。
  • 金銭の授受を伴わないため、相続税の申告から漏れる場合がある。
  • 契約の内容によっては、保険事故発生時に所得税や贈与税が課税される場合があるため、保険の契約内容を精査する必要があります。

まとめ

死亡保険金は、条件を満たせば相続税の非課税財産なり、相続税負担を軽減する効果が期待できます。また、生前中のリスクのカバーとして保険を利用される方は非常に多くいらっしゃいますが、死亡後のリスクの管理においても有用です。

しかし、生命保険契約は、リスクにあった契約でなければ期待通りの効果が望めないばかりか、意図しない税負担が生じる場合もあり得るため保険の活用においては専門家にもご相談してください。

保険は、保証内容・保険の契約者・保険料の負担者・被保険者・保険金の受取人の組み合わせ次第では、税負担の抑えつつ財産の移転や相続人の生活の保障などが可能となります。

このコラムは、令和3年12月からマイベストプロ宮崎にて掲載していたものです。