暦年贈与の活用

令和4年の与党の税調(税制調査会)の税制の基本的な考え方で、「相続税と贈与税の一体化」についての検討が始まっておりますが、今回は、まだ利用可能な暦年贈与を活用した相続対策について紹介をいたします。

※暦年贈与を活用した相続税の節税方法については、上記の 相続税と贈与税の一体化が行われた際には使えなくなる可能性がありますが、令和4年の現在は利用可能です。

暦年贈与(1月1日~12月31日までに受け取った贈与財産で税額の計算を行う方法)の基礎控除(110万円)を活用したり、推定される相続税の税率よりも低く抑えた贈与の税率での財産移転を行うことでトータルの税負担を軽減する方法です。手軽で節税効果が高いため、相続税の対策として最もスタンダードと言っても過言ではない節税方法です。しかし、上手に使えていないケースや調査の際に指摘されるケースも散見されます。そこで、暦年贈与の際の注意点やポイントを紹介しようと思います。

※納税猶予の特例を利用するものについては、割愛しております。

まず、贈与の定義について確認します。

①金銭・物品などをおくり与えること。

②〔法〕民法上、自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方がこれを受諾することによって成立する契約

広辞苑

(贈与)

第五百四十九条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。


(書面によらない贈与の解除)

第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。


(贈与者の引渡義務等)

第五百五十一条 贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。
2 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。


(定期贈与)

第五百五十二条 定期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失う。

(負担付贈与)

第五百五十三条 負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。

(死因贈与)

第五百五十四条 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。


民法549条~554条

このように、贈与は”当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる”とされており、「相手方が受諾」が贈与の要件の1つとなっております。

贈与は口頭でも可能ですが、税務調査が行われた際には、その証拠能力が低いうえに”書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。”とされており、相続税法基本通達においても贈与による財産取得の時期は、”書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時 ”(相基通1の3・1の4共-8)とされている。そのため、贈与は口頭契約の場合には、その履行がされていないと贈与の成立を主張できず、さらに時期を明確にすることも困難であるためその贈与行為を証明することが困難場合があります。

そこで、贈与は、書面による方法がオススメです。

贈与者と受贈者は、直筆の署名になるものだと当事者間での契約であることが証明できるうえに、資産の内容やその贈与の時期を明確にすることが可能です。現行法では、相続等によって遺産を取得した者は相続開始前3年以内に受けた被相続人からの贈与財産については相続税の計算の際に引き戻されることなどから、その贈与が行われた日にちも重要になってきます。

また、書面による贈与であれば贈与税の節税だけでなく、後々の親族間のトラブルも回避することにも寄与するため、少しだけ手間がかかりますが贈与の際には書面で行うことをお勧めします。書面による贈与の際の注意事項としては、未成年のに対する贈与契約の場合には、民法上は単純贈与は可能ではありますが、親権者の同意があった方が後のトラブルになりにくいので可能な限り親権者の連名での契約書を作成するように心掛けた方が良いと思います。なお、税務調査では、書面によらない贈与の場合には、受贈者の年齢なども考慮したうえで贈与の契約を理解して行ったのかや本当に財産の移転が行われたのかもチェックされたりします。

つぎに、贈与契約内容の注意点としては、連年贈与にならないようにしてください。契約内容を毎年〇〇万円を△年間贈与するといったようにすると、その契約時に〇〇万円×△年分(現在価値に引き直した)の贈与が行われたとして贈与税が課税されます。そのため、たとえ毎年同じ金額を贈与する場合であっても、贈与のたびに贈与契約書を作成するようにしてください。また、金銭で贈与する際には、通帳間の振込にしておくと贈与契約書を紛失した際にでも贈与の証明が楽になります。

当たり前ですが、書面で行う場合であっても虚偽の贈与や名義預金などのように金銭を映しているだけで実際に相手に渡していない場合には贈与そのものが否認されます。過去の判例等では、公正証書による不動産の贈与契約書を作成して、贈与税課税の除斥期間が経過した後に所有権移転登記を行って贈与税の課税を逃れようとしたものもありますが、仮想行為として否認されたものが数件見られます。

暦年贈与に向く財産としては、現金・預金などの財産がおすすめです(贈与税の申告書を作成する場合であっても財産評価が簡単です)。同族会社の株式や事業用資産などの他の相続人等に分散させたくない財産なども、贈与により分散を避けたほうが経営の安定につながりますが、同族会社の株式は毎年贈与を行うとなると評価額の算定に手間がかかり、また、一度で移転させると贈与税が多額になる場合も考えられます。そういった場合には、納税猶予の特例や相続時精算課税制度の活用(同族会社の株式については、評価の引き下げと同時に行うことでより節税効果が期待できます)を検討することもおすすめします。

民法第553条の負担付贈与や民法第554条の死因贈与についての税法上での注意点として、負担付贈与は、その負担が贈与者の利益になる場合などには贈与者に譲渡所得が課税されることがあります。

また、死因贈与は相続税法上は遺贈として課税されるため、贈与税ではなく相続税の課税対象となります。なお、死因贈与によって不動産を取得した場合には、登録免許税や不動産取得税は相続や遺贈(一定の場合に限る)より税率が高くなる場合がありますのでご注意ください。

そのほか、税法には「みなし贈与」の規程もあるため、民法に規定する贈与以外にも、低額譲渡などの経済的な利益の移転があると認められる場合には、贈与があったとみなされて贈与税が課税されます。近年は、信託の利用などが良く見受けられますが、委託者と受益者が異なる場合など、みなし贈与課税がされるケースもありますので、信託契約を結ぶ場合にはご注意ください。また、保険の契約などでも保険料の負担者と保険金の受取人が違う場合には、贈与税が課税されることもあるので契約時には、課税関係もご確認してください。

暦年贈与を利用した節税方法は、相続開始までに長い期間を取れる場合や贈与先が複数あると高い節税効果が見込めますそして、相続税がどのくらいかかるかや税率なども考慮しておくと効率的な節税を図ることができます。また、生前中の贈与ですので、親族間の争いにもなりにくいので争族対策にも有効です。

そのほかの暦年贈与のポイントとして、相続税の3年以内の贈与財産の加算の規定にも気を付けて、「贈与税の配偶者控除」や「住宅取得等資金の贈与の非課税の特例」などの加算対象とならない贈与の活用や、相続人や受遺者に対して贈与を行う場合には贈与の時期に注意したり、子の配偶者などの相続人や受遺者に当たらない人への贈与を行うなど贈与相手も検討すると良いかもしれません。

不動産の贈与の際には、登録免許税や不動産取得税が相続の場合より高いのでご注意ください。贈与後には、固定資産税の負担も発生します。

私は、相続の対策を行う上で最も大切なことは、被相続人や残された方々が幸せに成れることだと思っています。節税のみを目的とした相続対策はお勧めしておりませんが、生前贈与は、渡す側と貰う側の双方の同意が有って行われるため、望まない財産移転が発生しないので活用が出来るようであればおすすめしております。贈与する際には、財産の移転方法や移転先、移転時期などを親族間などでよく話し合って、税負担の軽減のみを目的とせず全員が幸せになるような資産の移転方法を探してください。

このコラムは、令和3年12月よりマイベストプロ宮崎にて公開しているものです。