最近、相続税の対策としての不動産の活用の相談やセミナー講師の依頼が増えてきております。
背景には、2015年の相続税の基礎控除の改正と2024年から施行される贈与税の改正が大きいように思われます。また、Webサイトや書籍・雑誌などでもその手の相続対策を取り上げているケースが多いのも一因かもしれません。
そこで今回は、中でもお問い合わせの多い「賃貸用不動産の購入」を活用した相続対策について説明いたします。
先に申し上げておくと、私は生前贈与を前提とした場合を以外では相続対策として賃貸用不動産の購入を人に勧めることはほとんどありません。相続税だけが安くなり、その後の相続人さんたちが苦労するのをたくさん見てきたからです。もちろん、上手に使えれば節税効果も見込める方法ではあるので、そのあたりの整理をしていきたいと思います。
節税の効果
現金で相続する場合には、100%の価格で評価され相続税が課税されるが、賃貸用不動産になると財産基本通達による評価額が大きく減少します。物件によっては、評価額が50%以上減少することも珍しくありません。なお、減るのは通達による評価額なので、実際の時価と開きがありすぎる場合には通達によらない時価の算定がされることもあります。
評価額の減少額に税率を掛けた金額が節税金額となります(遺産総額1億円前後の方の場合には、15%前後の税率が適用されます)。
具体例
1.現金1億円で、相続人が子2人の場合
相続税額:770万円
2.現金で、5,000万円(相続税評価額2,500万円)の賃貸用不動産を購入した場合。
現金5,000万円+賃貸用不動産5,000万円(相続税評価額2,500万円)
相続税額:395万円
差し引き:770万円 – 395万円 = 375万円の節税が出来ます。
(借り入れを行って不動産購入をするスキームもあります)
ここまでは、Webサイトなどでも良く紹介されているかと思います。
リスクとコスト
賃貸用不動産は、購入時には、登記費用(登録免許税や司法書士への報酬)や不動産取得税などがかかる場合があります。
保有期間中は管理が必要になります。特に十数年たつと入居率の低下に加えて維持費用や補修費用が多くかかり始め、収支が厳しく物件も出てきます。
相続時には、相続登記の費用(登録免許税や司法書士への報酬)も必要になります。
また、売却時には不動産仲介業者への仲介手数料の支払いも必要に場合があるほか、購入時より売却価格が低くなる場合も多くあります。
注意点
- 不動産を購入する際には、登記費用や不動産取得税がかかる場合があります。
- 相続の際に、不動産の相続登記費用がかかります。
- 不動産を売却する際には、仲介手数料(売価の3%程度)などがかかる場合があります。
- 所有中の不動産の管理が必要となります。
- 時間がたつと入居率の低下や維持費が高くなり、収益力が低下しやすくなります。
- 相続後に売却を考えている場合には、購入時から売却まで時間がかかることも多いので不動産の売却価格が購入時より下落する可能性があります。また、売り急ぐと売却価格が低くなりやすいです。
- 時価と通達評価額とに開きがありすぎると、通達評価が適用されないこともあります。
- 相続税の納税資金を確保する必要があります。
- 現金のときよりも遺産分割協議が難航しやすくなります。
- 借り入れを行って不動産購入をする場合には、特にキャッシュフローに注意する必要があります。
おすすめできる相続人
- 不動産投資や不動産運用・管理の知識と経験が豊富な相続人がいる場合。
- 相続後に現預金をあまり必要としない方。
- 小規模宅地等の特例の適用先が無い方で、上記のいずれかも満たす方。
- 相続時精算課税制度などを利用して、相続人の資産形成や相続税の納税資金の確保を進めたい方(購入後に相続人に贈与する)。
まとめ
賃貸用不動産を購入して相続税は安く済んだが、引き継いだ相続人が困ってしまうケースも多くあります。相続後に賃貸用を上手に活用できない場合では、減少した相続税を費用や不動産の売却損が上回るケースもあります。
賃貸用不動産を購入しての相続対策の場合には、相続税の節税だけではなく、購入した賃貸用不動産をどうするかを相続人さんたちとも話し合っておくことも大切です。
また、相続後に管理が難しく売却する必要がある場合には、購入時から売却時までの総費用と相続後にどの程度の金額で売却が出来そうかなどもリサーチしておくことも大切になります。 相続人さんが複数いる場合には、遺産のうちに不動産の占める割合が大きすぎると分割協議が難しくなることもあります。
賃貸用不動産を購入する節税を行う場合には、そういった部分もフォローしながら進めていくと良いかと思います。